田中利幸(新東京) 映画「Joker」(2019) "身を削って体現した「語らない説得力」"
- ko shinonome

- 6月5日
- 読了時間: 2分
更新日:6月6日

自己紹介をお願いします。
新東京のキーボード担当。また新東京合同会社の代表を務めています。
直近のリリースについて教えて下さい。
"Mirror"は、現体制における新東京の終幕を飾るEP『新東京#5』に収録された一曲であり、本EPで表現した「次元超越」を主題とした作品です。
僕たち自身が創作物でありながら、その媒介として創り出す楽曲やMV、グッズを通じて、鑑賞者に最も深く干渉できる表現とは何かを模索した試みでもありました。

田中利幸さんが、今まで見た映画で感動したワンシーンを教えてください。
映画「Joker」(2019)でアーサーが更衣室の隅で靴を引っ張って伸ばしているシーン。
映詞無し&長回しで背後から撮影する独特な演出はアーサー暴走前のシーンの中で個人的に最も印象的だった。なにより目を奪われたのが、23kg減量して挑んだホアキン・フェニックスの異様に痩せ細った背中である。浮き出た骨格と痛々しく歪む華奢な体が、必死に力んで筋肉を震わせる姿は、安易な台詞や表情での表現よりも強烈に感情が動かされた。
似た手法として、映画「怒り」(2016)では渡辺謙が台詞無し&長回しで表情を見せずに背中だけで芝居をするカットがある。物語の展開を大きく左右する重要な事実が明かされるシーンなだけに、ここでの演出としては相当攻めた選択だったように思うが、こちらは音楽が台詞の代わりに意味をしっかり補っていた。

一方「Joker」の該当シーンでは音楽の代わりに靴が軋む音のみが響く。痩せた体や背中のあざ、冷たい緑がかった照明やカラグレも相まって、セリフや表情での説明は一切無くとも、社会から孤立する「被害者」としてのアーサーと、まだ表面化していない潜在的な暴力性の気配までも感じることができた。ホアキンがこの一作のためだけに文字通り身を削って体現した「語らない説得力」は、説明で埋め尽くさず、受け手の想像力が入り込む隙間を残すことの重要性を改めて思い知らせてくれた。

今後のお知らせがあれば教えて下さい。
新東京は現在、新体制の準備期間に入っております。次なる景色をお届けできる日まで、もう少しだけお待ちください。
新東京 田中利幸
編集 ko shinonome






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